さとうひろし 一有権者のブログ 

アクセスカウンタ

zoom RSS 臨床美術(あれから10年)

<<   作成日時 : 2009/11/08 01:11   >>

面白い ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 2

10年ほど昔、私がある研究所に、研究員として在籍していた頃、同じ研究所に在籍していた金子健二さんという彫刻家の方から、金子さんが実践なさっていた独自のセラピー(彼はいわゆるアートセラピーと混同されるのを避けていた)についてお話を伺う機会が何度かあり、一度、セラピーに参加させていただいたことがあります。

金子先生のセラピーでは、参加者(心理療法の世界で言うクライエント)の方に、絵の具や粘土など、様々な絵画・造形素材を使って作品を作って頂くのですが、
1.事実上、高齢者の認知障害の予防、認知症の症状改善に目的を絞っていた(が後年、結果として、症状を問わない効用が見えてきた)。
2.どんな色・形の作品を作るかは一切決めず何も制約しない。仮に何かを見ながら作品を作る場合でも。
3.セラピストは参加者の方が、5感を総動員して制作過程そのものを楽しめるようなアシストに徹する。
4.出来上がった作品について、比較しない、分析しない(ここが精神科領域の絵画療法・箱庭療法等との決定的違い)。
5.作品作りを通じて、参加者の方がどんなことを感じたか?思ったか?を記録に留め、参加者の方の、前向きな言動の活性化をセラピーの目標とする。
という点で、それまで「芸術療法」という用語で括られてきたセラピーとはかなりポリシーが異なる内容でした。

金子先生のセラピーは、研究パートナーであった脳外科医の木村伸さんによる客観的な効果検証などによって着実な臨床成果を挙げていったものの、ただでさえアートセラピーの認知度が低かった当時、その成果はほとんど世の中に知られないばかりか、当時の西洋医学では説明のつかないほど高い成績を公表してしまったせいか、研究パートナーの木村さんは同業者から激しいパッシングを受け、遂に職場を追われてしまったという話を当時聞きました。


あれから10年、勤め先も退社し、当時のことなどほとんど思い出さなくなっていたのですが、先日偶然、このセラピーの、その後をネットで知りました。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20091102/193033/?P=1

まだ、世間ではあまり知られていないものの、金子先生のセラピーはその後多くの賛同者を得て日本臨床美術協会という特定非営利活動法人を生み、
http://www.arttherapy.gr.jp/index.html
金子先生が設立した芸術造形研究所では、後継者育成のための指導を、きめ細かに体系化させていました。
http://www.zoukei.co.jp/index.html
そして、とても残念なことに、セラピー生みの親である金子先生は2年前、58歳という若さで急逝なされてしまいました。
http://galleryken.com/artists/kaneko-k.htm
http://ginza-arthall.com/exhibition/08/081110/index.html

セラピーの研究スタートとほぼ同時に、ビジネスとしての展開を模索し、目標を認知症状の予防・改善に絞って矢継ぎ早に資格制度を立ち上げるやり方(芸術造形研究所設立当初から経営に携わっていた西田清子さんは、私が10年ほど前にお話を伺った頃から、経済的に成り立つようにしなければセラピーを続けることはできないとおっしゃっていました )については、ひょっとしたら、芸術畑から批判が出ているかも知れません。

けれど、彫刻家として、作品という結果を出し続けていれば十二分に食べて行ける地位にあった金子先生が、その地位を放り出して、自分の生活を(経済的)リスクに晒してまで、セラピーという、(形ある)結果の無い仕事に人生を賭けた志の強さを、決して見落としてはならないと思います。
金子先生と親しかった芸術家が、作家としてとても優秀だっかにも関わらず、”作品への評価”という呪縛から精神を病んでしまったことが、金子先生がセラピストを目指したきっかけの一つだった、という話を、研究員時代に聞いたのを覚えています。

結果で勝負する世界で生きる術を十二分に身に付けた作家が、結果の勝負からきっぱり手を引き、「製作」という過程自体の価値にスポットライトを当てた意味は大きいと思います。形の上では、それは芸術作品造りではなくセラピーかも知れませんが、人類にとって、芸術の存在価値というのは、本来、創る行為自体に秘められた精神作用にあるのではないでしょうか?行為自体が、他者との比較など浮世の煩悩を取っ払った後に残る生の証。そうではない行為は、工芸にはなり得ても、芸術とは言い難いような気がします。

金子先生が編み出したセラピーの特色について具体的に知りたい方は、下記の講演録が良い参考になると思います。
http://www.kanda-zatsugaku.com/080222/0222.html


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
面白い

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
本来、創る行為自体に秘められた精神作用にあるのではないでしょうか?

この部分に同感です。
この事を今まで上手く言葉にできませんでした。
金子さんの本を読み始め、心に引っかかっていた事が
一気に晴れました。
先日ワークショップに参加し、大変興味を持ちました。
Taz
2010/06/08 09:33
Tazさま
コメントありがとうございます。

表面的な理念だけで言えば、臨床美術と同じような思想の芸術療法はたくさんあると思いますが、つくるもの、つくりかたの様式にとらわれない現場主義の徹底に、臨床美術の特徴があると思います。
さとうひろし
2010/06/08 11:02

コメントする help

ニックネーム
本 文
臨床美術(あれから10年) さとうひろし 一有権者のブログ /BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる