知ると一層遺作が惨めに映る(”三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実”を見て)

今から半世紀ほど昔、東大駒場キャンパスで行われた、三島由紀夫と全共闘の学生たちの討論フィルムから制作されたドキュメンタリー「三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実」を観てきました。
https://gaga.ne.jp/mishimatodai/
トークショーの記録として見るなら、この上なく面白い討論で、今日、これほど面白くて質の高いバトル出来る人達が居るだろうか?と思うほど。けれどその充実した内容を知ってしまうと、この討論から一年半後に三島が遺した遺作(自決)の内容が、あまりに惨めで悲しくなります。

本作の第一印象は、思想や哲学を、自分の日常の糧になるまで咀嚼した人は、畑違いの人達にとってもこんなに刺激的で面白い論議が出来るんだという驚き。そして三島由紀夫は、聴衆を魅せるためなら今でも言う自虐ネタも厭わず、自身の思想の背景になった自分の思春期の影響も隠さず、そこから逃げない。(当時世界同時革命を標ぼうしていた全共闘の)学生から「それでは日本人から一歩も出られないじゃないか」と言われば、「出る気は無い」と返すリアリスト。議論の勝ち負けなど関係なく、どれだけ実りのある議論が出来るかに徹している。とても魅力的なステージ。

三島由紀夫の魅力を引き出した全共闘の学生達の、勉強ぶりも見事。特に、全共闘に加わっていながら、現実的な社会変革には興味を示さず、芸術家としての”解放区”作りに徹しようとする芥正彦と、芸術界のトップスターに登り詰めながらそこに留まることをよしとせず、社会変革を目指してもがく三島由紀夫という、対照的な二人のやりとりは、どちらが正しいという訳ではなく、今も昔も変わらず、表現を極めようとする者が直面する葛藤を、端的に表していているようで、とても勉強になりました。

今も現役のアーティストである芥正彦は、表現者としての道を踏み外さなかったと言える一方、安全な場所から一歩も出なかったとも言えるでしょう。片や三島由紀夫は、見世物のような死に様を想うと、道を踏み外して哀れな最期を遂げたとも言えそうですが、真摯に現実社会に向き合ったことも否定できないでしょう。

三島はこの討論会で、自分の言う天皇とは、現実の天皇制でも天皇のことでもなく、日本の民衆に染みついている意識を象徴的に表した言葉だと説明していましたが、芸術は、既存のしがらみから自由になってこそと、討論会でも一貫して主張していた芥は、本作制作のため新たに行われたインタビューでも、(天皇を国のトップに掲げようとする)自分と共闘してほしいと、学生に呼びかけた三島に対し、「学生をばかにしていた」と語り、今でも三島の考えを容認していません。この対立は、あって然るべきでしょう。

とはいえ・・

この討論を、社会運動の討論として見れば、上から目線も甚だしい机上の空論バトル。こんなことしてたから、(三島も含めて)彼らは結局、何も変えられなかったという、反面教師の典型例であることも、否定できないと思います。

実際、討論の壇上で持論を語っていた当時の学生達(のうち存命の人達)は、本作のためのインタビューで学生運動の総括を問われても皆、のらりくらり、うやむやに語るのみ。主義主張が一貫しているのは討論の当時から、闘争を表現行為の一環としか位置付けていなかった芥のみで、現代の社会運動に関わる人達にとって、学びになるような話は、彼らが結局は何も変えられなかったという現実以外には、見当たりませんでした。

そして私達は皆知っている三島の遺作(自決)。言葉で語る物語は、言葉の世界だから魅力的なのであって、それをそのまま現実にやってしまったら、単なるアブナイ人間にしかなりません。

人に対して誠実な三島は恐らく、自分の闘争的な主張を曲げず、なおかつ実際には誰も傷つけないように、熟慮に熟慮を重ねて、あの自決を遂げたのだとは思いますが、本作の討論場面を見てしまうとなおさら、道化のような三島の死に様が惨めに見えます。あれで自衛官が決起すると本気で考えるほど、思慮の浅い人ではなかったはずなのに。

あんな無様な死に方をせず、成田空港闘争や湾岸戦争のときも三島が社会に激を飛ばしていたら、今ほどレイシストや、対米隷属でしかない(自称)保守、(自称)右派の類が、世間で大きな顔をすることもなかったでしょう。

あんな死に方では、当時20歳そこそこの若造に過ぎなかった芥が討論で、(芸術家としての)三島の活動を批判した「敗退」という指摘を、否定できないでしょう。 

他の死に様は、なかったのか・・・・

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