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zoom RSS 絵画というより建築そのもの(応挙寺を見て)

<<   作成日時 : 2013/05/13 11:09   >>

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先日、所用で兵庫県を訪れた折、日本海に面した香美町にある、大乗寺(通称”応挙寺”)を見学してきました。円山応挙が十代の頃、苦学する彼に大乗寺の住職であった密蔵上人が学資を支援したのが縁で、後年、絵師として名を馳せた応挙が、大乗寺客殿建築に際し、若い頃の恩返しにと、一門の精鋭を率いて大乗寺の障壁画、欄干の木彫りを手がけたのだそうです。

日本の寺院では通常、本尊となる仏像の周囲に、四天王像、あるいは十二神将像を配置しますが、大乗寺の客殿では、十一面観音像を安置した中央の仏間の周囲を、10の部屋(2階部分も入れると12)が取り囲み、それらの部屋の襖や壁全てに、応挙一門の手で様々な風景が描かれていました。近年の研究によると、描かれた襖絵は単なる風景画ではなく、仏間を中心とした曼荼羅図となるよう、それぞれの作品テーマが選ばれ、普通は四天王像で表現される価値観も、風景画に置き換えて描いたのではないかと、考えられているそうです。

それぞれの部屋に描かれている絵を漫然と見ていただけでは分かりませんが、それぞれの部屋に描かれた絵は、「水の流れ」を通じて隣室とつながっています。仏間に描かれた須弥山から流れ出た水は、仏間の南側(山側)の部屋を巡り、最後は仏間から見て北(海側)にある「山水の間」に描かれた海に流れ込んでいます。

寺院の現実の立地に合わせ、仏間から見て山側には山を描き、海側には海を描き、なおかつ作品の題材を四天王が象徴する価値観を表現するように選ぶ。

単に美しいだけでなく、現実世界の風景との符号を図りながら寺院に相応しいメッセージを込めるという重層的な空間構成は、現代社会での仕事に置き換えれば、単なる壁画制作ではなく、建築空間のデザインそのものと言えるかも知れません。

足の無い幽霊像という、前例の無い斬新な表現を開拓して一世を風靡した応挙は、大乗寺の襖絵ではオーソドックスな様式からの逸脱を避けながらも、卓越した写実力を発揮し、現代の目から見ても単なる様式に留まらないリアリティを感じさせる作品を残しています。制作に参加した他の絵師達の作品も、卓越した写実力で描かれ、見ていて飽きません。猿の間を手がけた長沢芦雪だけは、下絵を描かず、立てかけた襖に即興で一気に、水辺に遊ぶ猿達を描いた(毛並みは筆ではなく刷毛で描いた)そうですが、その描写はあくまで写実であり、このプロジェクトが一貫したコンセプトに貫かれていた様子が伺えます。

大乗寺の襖絵制作に、最晩年の8年をかけた応挙は、制作完了直後、63歳の生涯を閉じたそうです。60歳を過ぎた頃から病気がちとなり、病気で視力も衰えた応挙ですが、大乗寺に残した作品が絶筆ではなく、その他の仕事を幾つも抱えながら死を迎えた晩年だっそうです。

苦学して絵師となり、現代社会で言えば企業戦士のような生涯を過ごした応挙は、斬新かつリアルゆえに恐ろしい幽霊画も生み出しましたが、作品の殆どは地道に写実を追及したもので、一世を風靡した幽霊像も、病気がちな妻の姿がモデルだったそうです。

表面的な様式ではなく、様式に力を与えるための、裏方のように位置づけられた写実力の鍛錬の結果として、斬新な表現を生んだ(しかしそこにも固執しない)応挙。彼の存命時の人物評としては、面白味に欠けるという評価もあったそうですが、近年の研究では、彼の(単に写実的というだけではなく)、時として凄みを感じさせる表現は、彼の、決して平穏ではなかった生い立ちと、その境遇から逃げずに向き合った彼の生き様だからこそ生まれた、という見方も出ているそうです。

現在の私達が、芸術と呼んでいる行為は、ちょっと表面的な方法論や様式に、とらわれすぎてはいないでしょうか?その結果、新しい世界が広がるどころか、かえって、芸術がその力を発揮する場を、狭くしてはいないでしょうか?

生前は、良くも悪くも地味と評されていたらしい円山応挙による、200年前の空間プロデュースを見て、いろいろ考えさせられました。

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