粗雑な発表に要注意(名古屋市立大 村瀬香准教授の発表について

 福島第一原発事故で飛散した、放射性物質による健康被害については、いろいろなことが言われていますが、科学的な信頼性のある情報は極めて少なく、残念ながら学術誌に掲載されたレポートであっても、必ずしも信用できません。先日も、名古屋市立大学の村瀬香准教授が、福島第一原発事故後に、乳児の心奇形が増加したと発表しましたが、プレスリリースを読むと、科学分野の研究発表とは到底言い難い内容でした。
https://univ-journal.jp/25180/
https://research-er.jp/articles/view/78091

 東日本大震災では、地震や津波による母体への身体的被害に加え、その後の生活環境激変など、胎児への悪影響が懸念される要素が数多くあり、原発事故後の影響を調べるには、こうした、地震そのものの影響と、放射能汚染による影響とを分離するための、何等かのデータ処理が不可欠です。
 けれどこの発表は、そのような処理を何ひとつ行わずに、東日本大震災後の心奇形増加を、福島第一原発後の心奇形増加と言い換えて、発表しているだけ。

 学術誌は、査読論文を除き、形式的に基準を満たしている投稿は信ぴょう性に關係なく掲載するので、査読論文以外は、学術誌に掲載されたからといって、信用できる訳ではなく、注意が必要です。著名学術誌に掲載された査読論文でも、STAPのように、掲載後に、(査読者ではない一般の研究者からの指摘で)ねつ造が露呈したケースもある位です。

 このようなケースで、科学に誠実な研究とはどういう仕事かと言うと、例えば、
1.実際の、放射能汚染の多少と、心奇形発生率との相関を調べる。
2、過去の、津波を伴う大規模地震後の、新生児の奇形の内訳と、東日本大震災発生後の、新生児の奇形の内訳を比較し、地震や津波の影響では説明困難な、東日本大震災特有の奇形の発生が無いかを調べる。
3、心奇形の増加が、放射線被ばく特有の健康被害だと、疫学的に言えるのかどうかを、過去の奇形の症例研究などから検証し、その検証結果と共に、東日本大震災後の心奇形増加について、言及する。
といった研究ではないかと思います。

残念ながら、これまで報じられた、福島第一原発事故に関連した、健康被害の研究発表の中で、議論に値するのは、岡山大学の津田敏秀教授らによる、小児甲状腺がん多発についての分析くらいではないかと思います。
https://hiroshi-s.at.webry.info/201603/article_1.html


2019年4月9日追記:
この論文の内容のおかしさについては、案の定、インターネット上でも数多く指摘されていました。
https://togetter.com/li/1328907?fbclid=IwAR0qp8YM-Nsk5TgjVlV2dJUPtfnCFroto1obBc7PkJJMCR2cOFTzjBmVBzQ

とりわけ、

>これ手術件数ですよね。複雑心奇形の手術手技や手術成績は年々上がっていて、かつて「手術適応でない」と言われたケースも行われることが増えているので、全体の手術件数が増加傾向になるのは不思議ではないように思いますが
>ARTの普及や高齢出産により先天性疾患そのものが増えているバイアスもありそうですね。
むしろ、考えうる各種因子との関係が知りたいところです(放射線は関係ないでしょうし…)
2019-03-14 22:08:00
ART= assisted reproductive technology, 生殖補助技術
体外受精、顕微授精法、胚移植、卵子・胚の凍結保存などの技術を駆使して体内での受精過程に問題のある患者さんに対して体外に取り出した卵子と精子で受精を行い、生じた受精卵を子宮に戻して妊娠を成立させる医療技術です。
http://www.jsfi.jp/citizen/art-qa01.html

という、医療技術の進歩が反映されているだけではないかという指摘や、

心臓の奇形の他に、村瀬香が、原発事故との関連を訴えていた、停留精巣の増加について、
>増加は福島県が多いわけではなく,北海道から沖縄まで一律に増えている pic.twitter.com/sA787OYeU1

という指摘も重要でしょう。原発事故(=放射能汚染)と関連のある症例なら、地域ごとに増加の度合いが異なるはずですから、全国でほぼ一律に増えている出来事に関して、原発事故の影響を疑うべきだと主張するのが、科学的な思考かというと、はなはだ疑問を抱かざるを得ません。

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